« ●究極の手彫り彫刻 「リバースインタリオ」 | トップページ | ●薩摩の"Satsuma"と京都の"Satsuma" »

2007年8月 5日 (日)

●三つのカメオが語る手工芸品のボタンたち

陰刻に対して陽刻の代表作はよく知られるカメオでしょう。ボタンの世界にもカメオは多く登場します。一口にカメオと言っても、その種類は用いられる素材の種類から、大まかに三つに分類することができます。

057 一つ目は現在でも多く生産され、一般的なカメオとしてブローチなどでもよく見受けられる貝のカメオです。南イタリアのトーレ・デル・グレコと呼ばれる漁師の町が世界唯一の生産地とされています。主な材料のトゥ・カムリ貝は表が白く、内側は茶色のため、その境目をうまく利用して、茶色の土台に白のモチーフを浮き上がらせるように、職人技でカメオを手彫りします。このボタンはイタリアで作られたもので、土台には純金が惜しみなく使われた高級なシェルカメオのボタンで、裏にはPESTELLのバックマークが入ったレア物です。

056 そのトーレ・デル・グレコは、1世紀の噴火でポンペイを飲み込んでしまったヴェスビオ火山の麓です。二つ目のカメオは、ヴェスビオ火山の溶岩石を材料として用いる陽刻のラーヴァカメオです。火山の噴火を考えるとシェルカメオより以前からこの地で生産されていたことは、想像に難くないですね。茶褐色のその姿は土器などの焼き物を連想させ、手彫りのぬくもりと相まって、素朴な味がその魅力でしょう。画像をご覧のとおり、溶岩石の表面に凹凸の深い実直な彫刻が施されています。

055 三つ目は今では博物館でしかお目にかかれない石のカメオです。瑪瑙(めのう)などの輝石の色の違う層を利用して、モチーフを美しく浮き上がらせることが可能でした。ストーンカメオが一番古くからあるとされ、古代エジプトの護符であるスカラベ(ボタン百物語その6参照)がその起源と言う説もあります。ご覧のボタンの中央に配された紅色のカメオは、紅縞瑪瑙(べにしまめのう)を材料にして、その紅色から白に至る積層部分をたくみに生かして利用し、陽刻を施すことでモチーフを見事に浮き上がらせたストーンカメオです。

輝石を利用して古代エジプトを起源に作られたカメオは、その後ルネサンスでよみがえり、エリザベス女王の時代の人々に、ナポレオンボナパルトに、ビクトリア女王に愛されて進化する中で、輝石から溶岩石へと素材を変え、また漁港と言う生産地の立地から貝へと材料が変遷する中で、現在へと脈々と引き継がれてきた手作りのジュエリーのひとつです。

このように悠久の歴史の中で、その輝きを受け継いできた装飾性豊かなボタンたちは、あまたある美術や工芸、技術、はたまた文化や文明など、その時々のあらゆる粋を凝らして作られたミニチュア工芸品なのです。

ボタン百物語 その14  by button curator

« ●究極の手彫り彫刻 「リバースインタリオ」 | トップページ | ●薩摩の"Satsuma"と京都の"Satsuma" »