●究極の手彫り彫刻 「リバースインタリオ」
彫刻にはいくつかの種類があります。
モチーフを削り出して浮き上がらせる陽刻(浮き彫り)にたいして、陰刻はモチーフを凹で表現します。将棋の駒や玄関の表札に見られる様式で、沈み彫りやインタリオと呼ばれています。
陰刻のインタリオを透明なものに施すと、そのモチーフは裏から見ると浮かび上がって見えます。これはリーバースインタリオと呼ばれ、水晶やガラスを裏から彫ってモチーフを表現した、崇高な彫刻手法の一つです。
英国貴族は狩猟を趣味として勤しんでいたため、18世紀から19世紀にかけて、猟犬や獲物の狐、鹿、鳥などをモチーフにしたハンティングボタンと呼ばれた狩猟クラブのボタンが数多く作られました。
このボタンは18世紀のハンティングボタンの代表作で、ガラスを彫刻して彩色しモチーフを浮き上がらせたものです。半球型のガラスを裏側から特殊な彫刻刀で削り、その凹み部分に彩色を施すことで柄が浮き上がって見えるように作られたリバースインタリオの秀作です。
イギリス貴族はお抱えの彫刻職人に、その報酬に糸目を付けずに腕前を発揮させ、このようなボタンを身につけることで自身のステイタスとしていたのです。一つ一つが手作りのため、狐の表情に微妙なニュアンスの違いが見られ、そのことがまたこのボタンに心温まる趣を与えています。
ハンドバックも腕時計も世に無かったこの時代に、ボタンは貴族のステイタスとしてその存在をアピールしていました。
ボタン百物語 その13 by button curator